ETが地球で珍獣に遭遇した話

よくあるUFOとか地球外生命体とか宇宙SFとかと違う、ちょっと変わった宇宙人小話。いや、宇宙もSFも全く出てこないけどねw


1. 観光旅行者

その外国人達はいかにも旅行者といった大きめのローラーバッグを身体の前に置き、高架鉄道のちょうど下にある信号で足を止めていた。その日の観光の余韻に浸り次の日の観光を楽しみにしつつも、慣れない異国の地の行程で少し疲れていた。

暗い。ここは都市中心部から近い環状線の車道で通る車も信号待ちの人も多いが、高架の真下にあるせいか車道用の灯りが無い。宿泊先につくまで今日の話題を貯め込むかのように彼らは静かだった。

彼らの観光の主な目的は史跡や文化鑑賞で、無機質な自動車は当然のこと現地の人達にもあまり関心が無かったのだが、なにやら横断歩道の向こう側にほのかに光る人がやって来た。正確に言うと光っているのはその人物の後ろにいる何かなのだが。

光る何かを後ろに持つ人物の周りには続々と信号待ちの人々が止まったり、通り過ぎたりしているが、誰も気付いていないようだ。その内信号が青に変わり皆歩き出すのだが、光る何かの人物はこの日本という国の会社人風で、早足で歩幅も広く、彼らが大きい荷物を押して動き出そうとする時にはもう既に横断歩道の半分を渡ったところまで来ていた。

彼らはその人物の光る何かに釘付けになっていた。ただの観光旅行で突然こんな奇妙なものに出会ったのだから当然だった。彼らはその人物の方には関心があるわけでないが、思いっきりその人物の方に首を向けてじろじろと見る格好になってしまっていた。本当に暗く顔自体はよく見えなかったので、それ程気にならないだろうと思い、じっと観察していた。その人物も外国人旅行者に気を留めていないようで、真っすぐ進行方向、こちらに顔を向けようとはしなかった。

その人物の頭上やや後方を見つめる彼らはそれに夢中だったが、距離が2,3メートルほどに近づいた時、あることに不意をつかれた。こちらに顔を向けようという気配すらなかったその人物が突如こちらを向いた。顔をややこちらに傾け、微かに一瞥し、そのまますれ違った。

自分達が不意をつかれたのは、その人物が唐突にこちらを向いたことではない。地球表面に住む単なる現地人だと思っていた人物が気付いたからである。自分達が地球人ではないことを。確かに光る何かに意識を向け接触を試みようとしていたが、そばにいるその人物が自分達の意識に気付くとは思わなかった。完全に地球人向けのそれではないからだ。全てに気付いているわけではないようだが、自分達が見ていたのは光る何かの方であること、自分達の目的の一つが観光であることを。

その人物も光る何かの方が重要と思っていて地球外生命体にはさほど興味が無いようなので、つきまとわれる心配は無さそうだ。


2. 脚長女子

(…! いたいた。)

私は自分の住んでいる地域の近くには無い「歯磨き粉」を買いに、休日のお散歩がてら少し遠出をしていた。用事も済んで帰ろうとした矢先、横断歩道を渡り切った直後のとある女性が視界に入った。特に郊外の田舎と言うわけではないがこの街に不釣り合いな、東欧系で黒髪のヴィンテージ・カール・ボブの女の子がスマートフォンを見ながら歩いていた。留学生なのか海外赴任なのか年齢不詳だがともかく、外国人ということもあろうが脚が長くてスタイル良いな~と思いつつ、まれにある妙な違和感を気にしないようにして、通り過ぎようとしていた。

(やぁ、気付いてるでしょ?)

私は歩道の建物側の端を歩いていたのだが嫌な気配がした。女の子はながらスマホで、このままではこちらにぶつかる方向と速度で歩いて来ている。

(ほらほら! 気付いてる!)

はぁ…どうやら思っている通りのようだ。いや、分かっているのなら、このままぶつからないように歩いてくれ。こっちは最初から歩道の端を歩いているのに。というか、そのスマートフォン、通信会社は日本のか?何を見ている?それとも、何かと会話している?全く前を見る気配もない…とそうこう思っているうちに、肩がぶつかるどころかもうほぼ完全に真正面、正面衝突寸前、第三種接近遭遇。

(道は譲ってくれないのねぇ。)

「…(´Д`;)」

女の子はぶつかりそうな瞬間こちらをチラ見して、身体をすり抜けるようにすれ違った。私も女の子も歩みを止めることは無かった。

しかし、よくよく考えるとあの脚の長さと比率は八頭身どころではない。地球人離れしていた。それと彼ら/彼女らの伝える複数の情報はまとめて一瞬「だけ」で意識に届くため、慣れていないせいか理解するのに時間がかかってしまう。そしてその情報到達時の感覚が薄れていき、全てを理解できないまま次第に忘れていく。あの肉体は実際の姿のようだが、彼女はどこからやって来たのかその時に意識していれば教えてくれたかもしれない。いや、情報はあったかもしれないが、天文に興味がない私には理解できていなかったか。